一句で三つのことを書く   吉澤久良

(「短詩作品」に掲載させていただいた吉澤久良さんの川柳8句は、1句に3つの事柄を並べるという手法で統一されています。冒頭の一句について、「鑑賞」でとりあげさせていただいたところ、吉澤さんより「一句で三つのことを書く」というメールをいただきました。(冒頭にあいさつがあるのはそのせいです。とると導入が分かりにくいかと思いましたので、そのままにしました。) 内容が濃いので、コメントよりは「評論」欄にということで、ここで掲載させていただきます。  湊圭史)

「一句で三つのことを書く」

 湊さん、拙句の鑑賞ありがとうございます。せっかく取り上げていただいたので、この機会に、一句に三つのものを書く、ということについて少し考えたところをコメントさせていただきます。

 試行錯誤の結果、形式としては一字アケで三つのものを並べるという形になりました。内容と形式とが互いに影響しあうということはありますので、これも議論のネタにならないことはないのですが、もっと本質的な問題はその三つのことの関係です。
 湊さんは、「白夜行 百物語 自傷の樹」については、「自傷の樹」に着地点を求める読みをなさり、「繭の痣 接着する指 ガラスの象」については、「ガラスの象」に着地点を求める読みは困難である、と書かれています(ただし、湊さんは「白夜行」にしても論理的展開をもって読む以外の可能性についても言及されています)。
 このあたりの句の構造とそれに対する読みについて考えることは、現代川柳にとってかなり示唆に富んだものになるのではないかと思っています。それがこの拙文の意図です。

仮に三つのことをA、B、Cとします。
①A→B→C という順で展開されて、Cで収束(着地)するもの。
②A→B→C という順で展開されるが、Aへ循環するもの。
③A、B、Cがそれぞれ等間隔で牽引あるいは反発しあってちょうど正三角形のような磁場を作り、全体として一つのイメージを志向するもの。

 とりあえず、①~③のパターンを考えてみました。具体的に作品に即して考えたいと思いますが、残念ながらこういう書き方の句はほとんどありませんので、やむなく自作を使用します。
 ①パターンは、「白夜行 百物語 自傷の樹」や「夢十夜 落市落座 不在の胃」などが該当します。「白夜行」についての、〈「虚無的な状況に情報が飛び交う中で、自らの傷のみを頼りに立ち尽くす」現代人の姿が見てとれるかもしれない〉という湊さんの読みは、「夢十夜」の句についても当てはまります。「不在の胃」に着地しているとする読みは可能でしょう。ただ微妙なのが、これらの句は②パターンの読みも可能だということです。情況→個人という流れはそこでとどまるのではなく、情況→個人→情況と循環する可能性があります。そうさせているのは三つのことの関係ですが、一字アケで三つを並べるという形の力が関係しているかもしれません。  

黒色火薬砂嘴種馬の蹄            井上 一筒

一筒作品は①パターンの句で、②パターンにはなりません。ただ、この句の場合は、一字アケをしても②パターンにならないでしょう。細部への収斂がこの句の意図と思われますので。

 次に③パターンです。「春の形代 根の国の鉦 溺れ谷」「擦過傷 花ざかりの森 忘れ水」「繭の痣 接着する指 ガラスの象」などがこれに当たります。湊さんは「二つの事柄から引き出した読みを残りの一つが裏切るところにスリルがあり」ととらえられ、私はこれらの句を「全体として一つのイメージを志向する」と整理しました。一見別々のとらえ方のように見えますが、少なくとも一般に行なわれている単純な直線的読みを取らないという点では、あまり差はないのではないかと感じました。

 近代川柳は問答体の超克をめざしたということがあります。その課題は現代でも解決されているとは言いにくい。直線的ではない読み、そしてその前提となる直線的構造ではない句、それについての考察は意味のあることだと思います。その流れの中で「一句に三つのことを書く」という試行が位置づけられればいいなと思っています。

(吉澤久良  湊宛てeメールより転載)

広告

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。