新葉館出版刊〈川柳作家全集〉を読む(4)

「新葉館出版刊〈川柳作家全集〉を読む」、最終回です。
76-100から4人の方の作品をとり上げさせていただきます。

『尾藤三柳(川柳作家全集 79)』新葉館出版、2009.

近現代川柳のひとつのオーソドキシィでしょうか。「実存」といった言葉を思わせる、重量感のある表現が並んでいます。

やがて風にやわらかい歯が生え揃う

馬券裂くとき脳天に夏がある

ハチマキをするとかなしい貌になる

ランチおわりしばらくぬくい人の皮

みんな一枚ずつ地図を持って去る

はじめに言葉ありて よごれつづける

首が据わらぬ帽子屋の赤ン坊

メタファの街 ついに有袋目あふれる

倫敦というはなくそのたまる街

方形の生殖器と しろありのけいず

尾藤三柳さんは現代川柳の第一人者と目されている方だと思いますが、そういう方でもまとまった数の作品を見る機会がないというのが川柳ジャンルの一つの問題かと。その意味で、まとめて読むことができただけでもよかった。戦前の新興川柳から中村冨二や根岸川柳らが開拓したシュールレアリスムにも通じる表現法が生きていて、『川柳マガジン』なんかでこうした表現が見られないのはなぜか、改めて考えさせられます。

『普川素床(川柳作家全集 80)』新葉館出版、2009.

シュールレアリスムにも通じる表現法、といえば、現在の川柳界ではこの作者といってもよさそう。

これは頭ではありません私の帽子です

鼻の奥に灯りが見える春は眠い

すこし危ない透明感へ声を出す

歯を磨きながらゆっくり苦しくなる

顔のスイッチを入れる 夜を消すのを忘れていた

歯のない口が永遠を噛んでいる

まっしろな大脳へ夕刊があつい

手品見て馬のさびしい顔を見る

終電車足のあたりに脳がある

握手握手空気入れならありますよ

ビルの休日 無数の貝の目がひらく

脳の中がくすぐったくなるような妙なねじれが発想にありますね。「分かりやすい」「誰にでも」といった薄く広くへのアピールだけじゃなくて、むしろこういう作風を押し出していけば川柳も別の方面から興味を持たれるのではないか、と思うのですが。『川柳マガジン』をまた例に出して申しわけないですが、あの雑誌で苦しいのは、どの選者も同じような句を選んでいること。普川素床選で、上のようなラインの句が並ぶページがあってもいいのではないかなあ。

山崎蒼平『山崎蒼平(川柳作家全集 94)』新葉館出版、2009.

再びこちらも本格派ですね。尾藤三柳さんに比べると軽みの句も混じっていて、全体を読む楽しみはこちらのほうが大きい。

初霜や病む父の髭なお深し

捨てた蛍が頭上で千ワットも光り

地球より重たい赤ん坊の丸み

病院が大きなマスクして白い

飾ってもこれは滑り台だよ 社長

これは大きな三角巾の救急車

十三億の爪が静かにのびている

アダムイブ蛇にパンツをはかされる

挿され躍動やがて静かな蝶の標本

ふぐりころころ俺を殺しにどこへ行く

自由度が高く正確な表現からくる軽みですね。上にとり上げた二作家が実存意識へ、内側へ傾斜する向きがあるのに対して、山崎蒼平さんの句は外向的なのではないかと思います。大ぶりな把握と批評意識によって、社会性への通路もしっかりと用意してくれている。個人的にとても好みの作風です。

『山本乱(川柳作家全集98)』新葉館出版、2009.

情念句、というのでしょうか、個人的な危機意識が核になっている句がメインです。

何を捨てたのだろう火柱があがる

渾身の声を沈めている乳房

頬杖の中を果てしもなく流れ

重心を少し斜めに咲いている

泥を吐かせたら男でなくなった

畳一枚あれば烈しくちりぬるを

古い住所の方へ手紙を書いている

息が詰まるほど抱きしめてくれた本

薔薇抱きたまえ有刺鉄線抱きたまえ

揺すってみたら金魚の糞だった

個人的には好きとは言いきれない作風だと思うのですが、印象の強いイメージが効いて、全体に面白く読ませていただきました。「泥を吐かせたら男でなくなった」「揺すってみたら金魚の糞だった」のようなキッツイ言い方も、過去形でうまく流していて言い過ぎの印象はない。「頬杖の中を果てしもなく流れ」はきれいな句ですね。

「新葉館出版刊〈川柳作家全集〉を読む」、これにて終わりです。

さっと目を通しただけですので、好作家・好句を見逃している可能性はありますが、個人的には、とりあえずこの〈全集〉で見渡せる範囲の傾向は分かったかなあと思っています。残念ながら、これまで以上の川柳の深みが見えてきたというところまでは行きませんでした。すでに知っていた好作家の作品をまとめて読むことができ、その価値を再認識できた、というところでしょうか。

〈川柳作家全集〉をシリーズ全体としてオススメする、というわけにはいかない気がします。特に、川柳って面白いかもと思った同世代以下に薦めるかと言えば薦めませんね。げんなりと幻滅する巻も多かったですから。出版社では新シリーズの自薦をつのっているみたいで、そのような企画と思えば、そういうもんだと納得せざるを得ないのかもしれませんが・・・。

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One Response to 新葉館出版刊〈川柳作家全集〉を読む(4)

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