ひきがへる石をのせると目をつむり   井上剣花坊

山本宍道郎編『井上剣花坊(川柳全集7)』構造社出版、1980.より

井上剣花坊(1870-1934) は阪井久良伎とともに明治期からの川柳近代化の動きを牽引した、俳句で言うと、正岡子規の位置にあたる人物。始めに活動拠点にしたのも、子規の俳句改革の拠点だった新聞「日本」。そこから「柳樽寺派」を結成。政治的には保守主義ながら、革新的な表現を追求、官憲に追われる鶴彬に活動の場を与えて匿うなどして、広い範囲の柳人に影響を与えた。

人が近付いても逃げようとしないふてぶてしいヒキガエルに、いたずらで石をのせてみる。反応は、目をつむっただけだった。川柳で出てくる動物には擬人化の傾向がつよく、多くの場合、イヤ味を感じるのだが、揚句はぎりぎりのところでそれを回避している。このヒキガエルに作者・剣花坊の面影をもとめたり、教訓として事に及んで動じない姿勢を読みとったりすることも可能だが、この句はぜひあっさりとしたユーモアの写生句として読むに留めたい。句のうまみは、指でつまんだ石の重みがヒキガエルにかかってゆく、そして目をつぶるところをみて、ヒキガエルが感じる石の重みを体感する、身体的レベルの交感にあると思う。

井上剣花坊のその他の句。「はらわたを引きずり蠅は逃げ行くよ」「飢えたらばぬすめと神よなぜ云はぬ」「それしきの金なら併し今は無い」「やせこけた犬に火焔のやうな舌」「政治屋に内閣といふオモチャ箱」「肥りたる蚤を潰せば孕み居り」。

(湊圭史)

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