海馬を羨むことはなき午睡
徳利のしばらくそらに浮き沈む
秋の野を掬いうへからのぞきたる
ひだまりの水を恐れる子を愛す
凍て尽くす流木は心音をもち
*
ふらんすの秘密結社のふらふーぷ非日常会話なら出来なくはない
ヴィルヘルム・レントゲン氏の胸の上に黒蝶重くしづかな展翅
鋼鉄のスカートをはく乙女らが砂漠に唄う秋の夕暮れ
世界じゅうで無実のひとが殺されて雨つぶぜんぶにうつるぼくの顔
鍵を呑みて吐き出だす芸を続けゐて遂にわが胸ひらく午後あれ
*
Ⅰ
キリンを見に行った動物園に
風船を売るひとがいた。
私とおなじ背かっこうで、
よくとおる声で話す。
この動物園は船のうえにあります。
沈没にそなえて風船はいかが?
子どもなら五つ、
大人なら十ほどで飛べます。
Ⅱ
草臥れた火に満ちた午後を
交番のまえを過ぎ、
砂の声帯を震わせて、
あなたは眠る。
ぼくは火のなかを幾度も通る、
二進法の馬車だ。
オレンジの種をあげる。
あなたは眠る。